いよいよ夏到来ですね! 夏は運動で熱中症になったというニュースを目にする機会が増える時期です。近年は気候変動の影響か、今まで経験したことがないような、想像以上の猛暑となることもあります。
そして、経験豊富なつもりのベテランのサイクリストでも、ちょっとした対策不足や気の緩みで熱中症になってしまうことがあります。熱中症の知識は皆さんなんとなくお持ちだとは思いますが、この機会にもう一度確認してみましょう。
文:田代恭崇(2004年夏季アテネ五輪・自転車ロードレース日本代表)
熱中症とは
熱中症とは、体内の水分量が低下し、汗を出して体温を下げることができなくなり体温が高温になる状態のことです。めまい、立ちくらみ、筋肉痛、生あくび、大量の発汗が起こる「軽度の熱けいれんと熱失神」、頭痛、嘔吐、倦怠感、虚脱感が起こる「中度の熱疲労」、意識障害、反応がおかしい、けいれん、バランスが取れていないが起こる「重度の熱射病」に分類されます。「中度の熱疲労」以上は、医療機関の受診が必要になります。
どんなときに熱中症が起こるか
夏に熱中症が起こりやすいケースは、体調がすぐれないのに出発する、出発前から水分量が不足している、1日の中でいちばん気温が高い時間に走る、日陰がないコースを走る、適切な水分補給をしていない、休憩時間が少ない——などが挙げられます。炎天下で長時間のサイクリングを続けると、熱中症を起こしやすくなります。
選手時代の熱中症対策
ロードレースは、夏の猛暑の中でも開催されます。私が選手の頃に行っていた対策は、適切な発汗ができるよう身体に常に十分な水分量を確保すること。スタート前から水分をしっかり取り、レース中もこまめに冷たい水分を補給。発汗で水分と一緒に出てしまうミネラルの補給も必要ですので、体内への吸収が早いハイポトニック系のスポーツドリンクも欠かせませんでした。
それでも体温が上昇してしまうことがありますから、スタート前は体温を上昇させないために、首筋、わきの下、大腿つけ根などの太い血管をアイスパックで冷やしました。走行中も冷たい水を首まわりにかけ冷やしました。
最近では熱中症対策用として、アイスパックを入れられるウエアなどもあり、選手の間でも活用されているようです。
サイクリングでの熱中症対策
夏の暑い時期のサイクリングでは、どんな熱中症対策が有効でしょうか。
まずは、体調がすぐれないときにはサイクリングをしないことが重要です。疲労がたまっていたり、睡眠が不足しているときはとくに注意が必要です。体調に問題がなくサイクリングに出かける場合でも、できるだけ涼しい時間帯、例えば早朝や夕方を狙います。日中で気温がいちばん上昇する昼過ぎはできるだけ避けましょう。
水分補給は熱中症予防に欠かせません。ミネラルも補給できるスポーツドリンクを用意し、冷たさが維持できる保冷ボトルに入れて携行します。まず出発前に水分を補給しておき、サイクリング中もこまめに水分補給をしましょう。喉が渇いたと感じた時点では、すでに脱水が始まっていると考えてください。そうならないよう、目安として15〜20分に1回、100〜200mlを飲んでください。
多くのスポーツ自転車には「ボトルケージ台座」が備わっており、そこにボトルケージ(ドリンクホルダー)を取り付けて、サイクリング用ボトルを携行します。ボトルケージ台座がふたつ備わっている自転車であれば、飲むための「スポーツドリンク」と、身体にかけることができる「水」を1本ずつ、計2本のボトルを用意するとよいでしょう。休憩時に腕に水をかければ、体温上昇を抑える助けになります。
逆にボトルケージ台座が備わっていない自転車の場合、ハンドルなどにボトルケージを取り付けるためのグッズを活用すれば、こまめな水分補給ができるでしょう。いちいち止まってカバンから飲み物を取り出すのではなく、サッと手が届く場所に飲み物があることも、大事な熱中症対策のひとつです。
リンク: MarkRosaにドリンクホルダーを付けてみました – BRI-CHAN
サイクリング中は、コンビニエンスストアも活用してください。体温を外から下げられる冷房が効いていますし、氷や水分も補給できます。最近ではスポーツドリンクを冷凍して販売しているので、身体を冷やすこともできますし、ミネラルも水分も補給もできます。スポーツドリンクが苦手な人は、コンビニで売られている「塩うめ」や「塩タブレット」などを活用するとよいでしょう。
熱中症にならないことが重要ですが、もし体調に異変を感じて「熱中症かも」と思ったら、正しく対処することも重要です。まずは涼しいところに移動し、衣服をゆるめて休みます。そして、水をかけるなどして身体を冷やしてください。近くにコンビニがある場合は、スポーツドリンクや経口補水液などを買って飲むのも有効です。
安静にして症状が治ったら、無理をせずに帰宅しましょう。輪行したり、家族にクルマで迎えに来てもらうといったことも考えてください。また、「中度の熱疲労」以上の症状が認められる場合は、ためらわず医療機関を受診してください。
参考リンク: 熱中症ゼロへ – 日本気象協会推進
まとめ
熱中症のことを知って対策を行えば、夏のサイクリングでもリスクを軽減できます。でも大切なことは、無理をしないことです。体調がすぐれないときは出かけない、あまりに猛暑な日は「また次回」と考えてサイクリングを行わないことも大切です。夏休みにサイクリングをしたいと考えている人は、対策をしっかりとった上で安全に楽しみましょう!
田代恭崇(たしろ・やすたか)
神奈川県藤沢市、江ノ島のすぐ近くで体験型サイクリングプログラムを提供している「リンケージサイクリング」を主宰。2004年夏季アテネ五輪・自転車ロードレース日本代表選手。
リンク: LINKAGE CYCLING
協力・協賛:ブリヂストンサイクル株式会社