自転車の達人に「クロスバイク乗りのための適切なサドル高」について聞いてみた

クロスバイクを購入する際、ショップでは乗り手に合わせたサドルの高さを設定してくれます。しかし、乗り慣れてくると、少し自分で調整してみたくなるものです。ところが、サドル高をいじり始めたら収拾がつかなくなって、いつまでたってもしっくりこない……ということも。

スポーツ自転車を楽しむ上でサドルの高さを適切にすることは重要だ

そこで今回は、リンケージサイクリング代表の田代恭崇さんに、最適なサドルの高さについてレクチャーしてもらいました。

最初は低めで納車されるのが一般的

「ショップでクロスバイクを購入する際、初めてのスポーツ自転車ということであれば、大体はサドル高を低めに設定して納車することになります。それまでシティサイクルしか乗ったことがないような人であれば、足つき性を重視するからです。サドルにまたがった状態で、地面に足をついたときにかかとが少し浮くぐらいが一般的で、スポーツ走行としては低いと言えます」

そう話す、田代さん。それまでシティサイクルしか乗ったことがない人にとって、サドルが高くて足がつきにくいというのは、大きな不安です。止まるときはサドルの前に降りれば良いのですが、慣れないうちは思うようにできないこともあります。そこでショップではビギナーに対して、足がつきやすい、低めのサドル高で納車することになるのです。

神奈川県藤沢市、江ノ島のすぐ近くで体験型サイクリングプログラムを提供している「リンケージサイクリング」の田代恭崇(たしろ・やすたか)さん。2004年夏季アテネ五輪の代表

サドル高は「高過ぎず、低過ぎず」

高くする→前下がり、にしがち

「しかし、クロスバイクに乗り始めてしばらく時間が経ち慣れてくると、今度は“サドルがちょっと低いのではないか”と感じるようになります。ペダリングが詰まるような感覚……とでも言いますか。そこで、自分でサドルの高さを調整するわけですが、その際にサドルを上げすぎてしまう人が多いんです」

確かに、サドルは高い方が見た目がカッコイイような気がしますよね。

「サドルを上げすぎると、今度は足の回転がスカスカした感じになってしまいます。また、股間がサドルの前方に当たって痛みを感じたり、そこまでいかなくても前傾姿勢をとった際に違和感を覚える、なんだか前傾姿勢が取りづらいように感じることもあるでしょう。そうすると今度は、サドルを前下がりにする傾向があります。

サドルを前下がりにすると、前傾姿勢の違和感や股間の痛みなどが改善されるような気がしますが、サドルで姿勢を保っていることができず、前輪荷重になりがちです」

サドルが低すぎるのもよくない

もちろん、サドル高が低過ぎてもいけません。「足がべったりと地面についていたほうが安心」という気持ちもわかりますが、低すぎることの弊害もあると、田代さんは話します。

「サドルが低いと、足を回転させにくくなります。股関節が詰まっている状態なので、ペダルをゆっくり回したくなります。すると、重たいギアを使いたくなります。重たいギアを使うと、筋肉に負荷がかかりやすいのです。膝の関節角度が深くて、体育座りから立ち上がるような運動になります。このとき使うのは、ももの前側の筋肉なんです。したがってサドルが低い場合は、前のももが痛くなります。そして、間違いなく膝が痛くなります」

なるほど、サドルが低いことの弊害は思いのほか多いのですね。

「サイクリングを楽しむとき、心臓への負担と筋肉への負担をバランスよくして、快適に楽しもうと思ったら、サドルを下げ過ぎないほうがよいんです。もちろん、足つきに対する不安もわかりますが、止まって地面に爪先を付いた状態で、怖くない高さにセッティングしましょう」

サドル高のセッティング例

では、クロスバイクのサドル高を調整したい場合、何を基準にしたら良いのでしょう。リンケージサイクリングのサイクリングプログラムでは、クロスバイクのレンタルも行なっていますが、レンタル時のサドル高はどうされているのでしょう。

今回は田代さんに、「高め」「標準」「低め」の3パターンについて、例を見せてもらいました。

「レンタルといってもお客様の経験値は人ぞれぞれですから、それによってサドル高も変わりますね。まずは、怖いか怖くないかがポイントです。怖いと感じるようであれば下げますし、ある程度慣れている方ですと、サドル高が低いとむしろ足の前側の筋肉ばかり使うことになってペダリングしにくくなるので、その人に応じてた適正値にします。用途、スピード、経験に応じてサドル高も調整します」

「一般的には、サドルにしっかり座って両足をだらんと下げたときにどうなるかで、判断します」と田代さん。まず、高めの例から見せてもらいます。

「足が全く届かない状態は、明らかに高すぎます。仮に止まる際に前方に降りられるとしてもです。つま先がちょこんちょこんと届いて、バランスが付くくらいが、上限だと思ってください」

続いて、標準的な例です。

つま先がこれくらい地面につく高さであれば、怖さも少ないはずです。ただ、ビギナーの場合はもう少し低めにセッティングします。

というわけで、最後に低めの例です。

「はじめてクロスバイクに乗るという人に対して、ショップではこれくらいの高さに設定することが多いのではないでしょうか」と田代さん。

土踏まずより前がしっかり地面についています。感覚としてはこれで「かかとがちょっと浮いているくらい」です。

自転車のサイズ選びも大事

今回はサドルの高さを中心に説明していますが、大前提として「自転車のサイズが体格と合っている」ことが必要です。スポーツ自転車の場合は、ひとつの車種に複数の「フレームサイズ」が用意されていることが多いので、適切なサイズを選びましょう。

例えば、ブリヂストンのクロスバイク「XB1」であれば、4種類のサイズがあります。自転車の専門店に行けば、スタッフが適切なサイズを提案してくれます。

サイズが合っていない自転車というのは、シューズ(靴)で例えれば「履けるといえば、履けるんだけど」といったようなものだと、田代さんは言います。

「シューズで言えば、足は入るんだけどシューズが小さくて横が当たる、爪が痛いとか、逆にシューズが大きくて中で足が動いてしまう——そういった経験を思い返してみてください。つまり、サイズが合っていない自転車は、乗れないことはないけれど、快適性がそこなわれるのです。自転車が小さすぎると、ハンドルが低くて近いままシートポストだけがどんどん高くなっていき、乗りにくい自転車になります。逆に自転車が大き過ぎれば、ハンドルが遠過ぎて疲れる、サドルが下げられない、フレームのトップチューブ(上辺)が高過ぎて乗り降りが辛いといったことになります」

リンク: エックスビーワン | スポーツ向け自転車 | 自転車 | ブリヂストンサイクル株式会社

適切なサドル高で快適に

いかがでしたか? クロスバイクに慣れてきて、もうちょっと速くスムーズに走りたいと思う人は、少しだけサドルを高くしてみると良いでしょう。逆に、サドルを高くしてみたけれどなんだかしっくりこない……という人は、もしかしたらサドルを高くしすぎているのかもしれません。

何事もやりすぎないことが大事です。サドル高を上げて、その後サドルを前下がりにした……というような人は、サドルを水平に戻して、高さを見直してみましょう。

リンク: LINKAGE CYCLING

text&photo_SUGAI Gen(CyclingEX)/Adviser_LINKAGE CYCLING

[最終更新:2024年3月15日]

協力・協賛:ブリヂストンサイクル株式会社