クロスバイクで輪行サイクリング:引地川沿いに走れば、江ノ島が見える。

「あの坂をのぼれば、海が見える」

幼い頃に添い寝の祖母からそう聞かされていた少年は、ある日海を目指して歩き始めますが、坂を越えても越えても、海は見えてきません。

国語の教科書でおなじみだった、『あの坂をのぼれば』(杉みき子)は、そんなお話です。

この先どれだけ進めば海が見えるのか、今ならスマートフォンで地図を見れば済む話ですが、それを自分の体験としてもっているのといないのとでは、大きな違いがあります。

神奈川県大和市内を流れる、どうということのない川「引地川」。その川沿いの道を、私はクロスバイクで進んでいました。

大和市から藤沢市まで、途中でほんの一瞬綾瀬市をかすめて流れる引地川の河口が、眼前に江ノ島という絶好のロケーションである鵠沼海岸(湘南海岸公園・鵠沼海浜公園)だということは、知識としてはもっています。しかし私は、実際に引地川をサイクリングして海まで出たことはありませんでした。

「川沿いに走れば江ノ島が見える」

なんとなくそんな気持ちで、いちおうGoogle Mapsをチェックしつつも、先日紹介したナビゲーションアプリなども使うことなく、引地川沿いを走り始めたのです。

住宅街とのどかな雰囲気が共存している引地川の流域は、江ノ島を目指すもうひとつの川(というか、メインルート)である境川と比べると、あまり自転車の通行環境が整備されているとは言えず、ときには未舗装路も現れます。

また、遊水池の工事が行われていて未舗装路すら途切れていたり、そもそも川沿いに道がない場所も多く、事前に思っていたほどスムーズに走ることができません。

川幅が狭く、景色の変化にも乏しいせいか、クロスバイクのペダルを漕ぎながら「本当に海に出るのか?」と思ってしまうのだから不思議なものです。確実に鵠沼海岸にたどり着くと、知っているはずなのに。

しかも、ナビゲーションアプリに頼らず、ときどき現在地を確認する以外はGoogle Mapsも見ることなく進んでいたら、川沿いの道が途絶えたところで見事に道を間違えました。建物が多くて川が見えず、しかもすぐ近くを別の支流が流れていて「ああ、あそこが川なんだな」とすっかり川沿いのつもりでいたら、支流をさかのぼり始めていたのです。

未舗装路にも何度も出くわします。舗装路に迂回しても良かったのですが、今回使用しているクロスバイク「CYLVA F24」はタイヤが700×32Cとほどほどの太さで、耐パンク性能も高いものなので、ある程度は未舗装路をそのまま突っ切ることにしました。

そして、ようやくきれいな道が続くようになったと思った頃。

目の前に、海抜表示の標識が現れました。最初に気づいたのは海抜6mの標識(もっと手前からあったようです)。すぐに、5.5mの標識が出てきました。

川面を見れば、確かに海が近い雰囲気ではありませんか。

時刻を確認すると、確かにそろそろ海に着いてもおかしくない頃です。

そして、予想していたよりも唐突にゴールが見えてきました。

太い道路が横切る橋が引地川にかかっていますが、その向こうにチラッと見えているのは……そう、江ノ島です。

湘南海岸公園に到着しました。

午後遅めに出発し、日没に間に合えばいいなとは思っていたのですが、時間的には間に合ったものの残念ながら曇り空で、冷たい風も吹いていました。

海の中には、波を待っている人たちがたくさんいます。

東の空は雲が少なくて明るさもありましたが、西の空はどんより。ときおり小雨も降る始末です。

それでも、個人的には鵠沼海岸に出て江ノ島をまじまじと眺めるのは久しぶりのことで、こちら側から見る江ノ島もいいもんだなぁ……と、しばし見入ってしまいました。

マジックアワーとはいかないものの、時間の経過とともに、江ノ島は表情を変えていきます。

そんな景色を眺めつつ、浜沿いを進んで橋を渡り、江ノ島に上陸。駐輪場に自転車を置いて、どこか食事ができるところはないかと、ぷらぷら歩き始めました。

平日の江ノ島は17時頃には閉店してしまう飲食店が多いのですが、それでも季節や天候、その日の人出によって営業時間が違います。Webサイトでは閉店時間を過ぎていても、お店の前で呼び込みをしていれば大丈夫。

そして、あるお店の前で「食事できますか?」と聞いたところ「どうぞどうぞ」ということだったので……。

こちらは「角ハイボール」という飲み物ですね、ええ。

事前に想像していたより疲れた感じがして、しかし程よい疲れでもあったので、なんというかその「飲みたいな」と思ったのです。

そして、海辺で冷たい風にあたったので温かいものが食べたいと思い「マグロカツ丼」を注文。しばらくすると、なかなか美味そうな丼が運ばれてきました。

失礼を承知で言えば、私はあまり観光地で食べ物に期待を抱かないタイプの人間なのです。しかし、マグロカツ丼をひと口食べてみると、適度にふわっと仕上がった卵とじと、さくっとしたマグロカツ、そして出汁の味が実に「私好み」で、思わず箸上げカットを撮ってしまいました(ちょっと中途半端になってしまいましたが)。

さらにはボリュームがしっかりしていた点も「走った分、食べていいよね」と考えてしまう私の心理にぴったり。

角ハイボール1杯でいい気分になり、さらにはマグロカツ丼で満腹です。もう、自転車で帰ることはできませんし、許されません。

しかしそれは、計画?どおり。

小田急線の片瀬江ノ島駅まで自転車を押し歩きました。小田急江ノ島線の起終点となる駅です。

先週お伝えしたように、CYLVA F24でも問題なく縦型の輪行袋に入ることはわかっているので、片瀬江ノ島駅で輪行作業。そして同駅始発の各駅停車に乗り込んで、程よい疲労感とマグロカツ丼の余韻にひたりながら、帰宅します。

関連記事: クロスバイクでも輪行できる?CYLVA F24で試してみた

ちなみに地図で見ると、小田急江ノ島線の右側には境川、左側には引地川が流れています。今回自転車で走ったのは大和市内から鵠沼海岸までですが、それを電車で移動すると各駅停車で30分くらい。自転車で、寄り道せず迷わず進むと、1時間くらいといったところでしょうか。

境川沿いは何度も自転車で走っていますが、引地川沿いは初めて。「川沿いに走れば江ノ島が見える」を身体的な感覚として身につけることができ、私は結構、満足したのでした。

関連記事: クロスバイクでも輪行できる?CYLVA F24で試してみた

●今回使用した自転車 CYLVA F24(シルヴァ F24)

photo_ブリヂストンサイクル

価格 52,800円(税別)
製品情報 https://www.bscycle.co.jp/items/commuting/greenlabel/cylva/index.html
※3年間盗難補償付き

車両提供:ブリヂストンサイクル

text&photo_Gen SUGAI(CyclingEX

協力・協賛:ブリヂストンサイクル株式会社