自転車の達人が解説する「サイクリングとエネルギー補給」

サイクリングの途中で力が入らなくなってこげなくなってしまった——そんな経験はありませんか? 短い距離ではあまり経験しませんが、長時間のサイクリングや、少し強度の高いサイクリングでは誰にでも起こりえることです。いわゆる「ハンガーノック」という状態で、身体が低血糖状態でエネルギーが切れた状態になり、動きたくても動けず、意識もぼんやりしてしまいます。そこで重要になるのが「エネルギー補給」です。

今回は、サイクリング中にエネルギー切れを起こさないための「補給の取りかた」や「おすすめの補給物」を紹介します。

文:田代恭崇(2004年夏季アテネ五輪・自転車ロードレース日本代表)

サイクリングに適したエネルギー補給と、おすすめの食べ物

唐突ですが、サイクリングの休憩で「唐揚げ」を食べたことはありますか? 唐揚げは、長い目で見ればエネルギー補給や身体を作るためには意義があるかもしれませんが、運動中の補給には適しているとはあまり言えません。

身体を形成するためには、食事で炭水化物、タンパク質、脂質、ビタミン、ミネラル類をバランスよく摂取することが大事です。しかし運動中は、タンパク質や脂質を多く含んだものは消化されエネルギーになるまで時間がかかります。運動中は、比較的早くエネルギーに変わる炭水化物を中心に摂取するとよいでしょう。

空腹になる前に、ゼリー、ジャムパン、カステラ、羊羹、あんぱん、大福、バナナなど手早く食べられるものを摂るのがおすすめです。

もちろん、水分補給も大事です。水分補給はこちらを参照ください。

距離と強度に適した補給

エネルギー補給量は、走行距離や運動強度によって異なってきます。実際のサイクリングシーンでどのタイミングでどのぐらいの量を摂取したらよいかの目安を知る上で、カシオ計算機の「高精度計算サイト」が便利です。サイクリングでの消費カロリーも目安にもなります。

リンク: 自転車の消費カロリーの計算 – 高精度計算サイト

「高精度計算サイト」を使って、下記に数パターンを出してみましたので、参考にしてください

のんびりポタリング(距離20kmくらい)

自転車に乗る(16.1-19.2km/時)
体重:60kg
走行:1時間15分走
運動強度:6.8(メッツ)
消費カロリー:536kcal

運動強度も時間も短いので、ポタリングの1〜2時間前に食事をしているのであれば、無理してエネルギーを補給する必要はありません。食事から時間が経過し小腹が空くようでしたら、サイクリング前か途中でゼリーやおにぎり1個(約180kcal)ぐらいを食べるとよいでしょう。なお、時間は短くても水分はこまめに補給しましょう。

週末のサイクリング(60kmくらい)

自転車に乗る(19.3-22.4km/時)
体重:60kg
走行:3時間
運動強度:8(メッツ)
消費カロリー:1,512kcal

朝食を食べた後に出発し昼食を食べずに戻ってくるなら、実際の所要時間は4時間ほどだと思われます。朝食が800kcalぐらいであれば、1.5時間毎に計2回ぐらいのエネルギー補給が目安です。

最初の休憩であんパンとオレンジジュース、2回目の休憩でジャムパンとゼリーといったところです。途中で昼食を取るようでしたら、ランチ前休憩で羊羹、ランチ後の休憩でカステラなどがおすすめ。もちろん、水分はこまめに補給しましょう。

週末のロングライド(100km)

自転車に乗る(19.3-22.4km/時)
体重:60kg
走行;5時間
運動強度:8(メッツ)
消費カロリー:2,520kcal

800kcalぐらいの朝ごはんを食べて、途中で1,000kcalぐらいの昼食を食べてから戻る想定とします。実際の所要時間は7時間ぐらいかと思われますが、ランチ前は1〜2回の休憩でバナナ、あんパン、オレンジジュースを補給。ランチ後も1〜2回の休憩でゼリー、羊羹といったところです。

水分補給もかなり重要で、汗といっしょに身体の外にミネラルも排出されてしまうので、糖質と塩分が含まれたスポーツドリンクを用意するとよいでしょう。水分は、一度にたくさん飲むのではなく、15分ごとに100~150mlぐらいを目安に摂りましょう。

昼食は補給と同じように、あまり消化に時間がかからない物で、炭水化物中心の食事が適しています。

とはいえ休日のサイクリングにおける昼食は、楽しみの中心とも言えますから、サイクリングの強度がそれほど高くなければ、昼食には好きな物を食べても構いません。もし昼食でご飯ものが少なかった場合は、サイクリング後半の補給では炭水化物系を多めに摂ると良いでしょう。


サイクリング中に「ハンガーノック」を起こしてしまうと、せっかくの楽しいはずの時間が台無しになってしまいます。そのような事態を避けるためにエネルギー補給という観点をもちつつ、美味しい物を食べてサイクリングを楽しんでください!

田代恭崇(たしろ・やすたか)さん

神奈川県藤沢市、江ノ島のすぐ近くで体験型サイクリングプログラムを提供している「リンケージサイクリング」を主宰。2004年夏季アテネ五輪・自転車ロードレース日本代表選手。

リンク: LINKAGE CYCLING

photo_リンケージサイクリング

協力・協賛:ブリヂストンサイクル株式会社