港町・横浜の歴史的建造物をクロスバイクで巡る

港町・横浜と聞いて、皆さんは何を思い浮かべますか? 横浜駅西口の喧騒、みなとみらい、中華街、港の見える丘公園——いろいろありますが、随所に残る歴史的建造物も、横浜の魅力のひとつです。

今回は桜木町駅から大さん橋にかけて、歴史的建造物をクロスバイクで巡ってみました。徒歩以上・クルマ未満の機動性をもつ自転車なら、いくつもの歴史的建造物を効率よく見ることができます。

まずは事前に、Googleマップで巡りたい建物を保存し、大まかに順番を決めておきます。そして当日はクロスバイクのキックスタンドを取り外して、相鉄本線で輪行しました。横浜側の駅は混雑を避けるために、行きは「平沼橋」、帰りは「西横浜」を利用しました。

横浜アイランドタワー(旧横浜銀行本店別館・元第一銀行横浜支店)

歴史的建造物めぐりのスタートは、桜木町駅から近い横浜アイランドタワー(旧横浜銀行本店別館・元第一銀行横浜支店)です。ここから、17のスポットをクロスバイクで巡ります。

オリジナルの姿を残しているのは手前のバルコニー部分で、この次に紹介する旧横浜生糸検査所の並びにあったものを、曳屋でここまで持ってきたのだとか。バルコニーより後ろは新築復元、そして新しい高層ビルと一体化して整備されています。横浜には、このようなスタイルで保存されている建物が多くあります。

保存・復元部分は「YCC ヨコハマ創造都市センター」の施設となっていましたが、2024年3月現在は運営事業者がおらず、横浜市が公募を行なっています。

竣工:1929年
設計:西村好時、清水組設計部

情報源: 旧横浜銀行本店別館 (元第一銀行横浜支店) 横浜市

情報源: 「旧第一銀行横浜支店」の運営事業者を公募します 横浜市

北仲BRICK SOUTH/横浜第二合同庁舎(旧横浜生糸検査所)

旧横浜生糸検査所とその倉庫群は、横浜アイランドタワーの向かいに「北仲ブリック&ホワイト」および「横浜第二合同庁舎」として存在しています。

こちらは、北仲ブリック&ホワイトを構成する建物のひとつである「北仲BRICK SOUTH」です。一連の建物の中で、唯一1926年に竣工した建物が保存・活用されています。

他の建物は解体の上で新築復元されたり、新しい建物の一部として復元されています。具体的には、北仲BRICK SOUTHの裏側に今回撮影していない「KITANAKA WHITE」と「KITANAKA BRICK NORTH」が建っていますが、それらは新築復元です。

そして、北仲BRICK SOUTHに隣接するこちらは、横浜第二合同庁舎。こちらも旧横浜生糸検査所の建物はいったん解体された上で、横浜第二合同庁舎の高層ビルの低層部分に新築復元されています。

竣工:1926年
設計:遠藤於菟 施工:大林組

情報源: 横浜第2合同庁舎(旧生糸検査所) 横浜市

情報源: 旧横浜生糸検査所附属生糸絹物専用B号倉庫及びC号倉庫 横浜市

情報源: 馬車道駅の出口、レンガ造りの建造物「旧横浜生糸検査所付属倉庫事務所」商業・文化施設「KITANAKA BRICK&WHITE(北仲ブリック&ホワイト)」を横浜観光スポットとしてご紹介します。

関連記事:

東京藝術大学 横浜校地 馬車道校舎(旧富士銀行横浜支店・元安田銀行横浜支店)

自転車を少し走らせてやってきたのは、本町通りと馬車道の交差点にある、旧富士銀行横浜支店・元安田銀行横浜支店です。

銀行らしい威厳があり、馬車道の景観に大きな影響を与えています。

現在は東京藝術大学 横浜校地 馬車道校舎として活用されています。

竣工:1929年
設計:安田銀行営繕課

情報源: 旧富士銀行横浜支店(元安田銀行横浜支店) 横浜市

馬車道大津ビル(旧東京海上火災保険ビル)

そして、旧富士銀行横浜支店・元安田銀行横浜支店の隣の「馬車道大津ビル」も、いかにも歴史がありうそうだなと思って調べてみると、1936年に竣工した旧東京海上火災保険ビルとのことでした。

奥の旧富士銀行横浜支店と、手前の旧東京海上火災保険ビル。すばらしい並びです。

竣工:1936年
設計:木下益治郎 施工:大林組

情報源: 馬車道大津ビル 横浜市

神奈川県立歴史博物館(旧横浜正金銀行本店)

馬車道大津ビルの斜め向かいには、神奈川県立歴史博物館があります。横浜正金銀行の本店として、1904年に竣工しました。国の重要文化財、ならびに国の史跡に指定されています。

関東大震災でドームを消失するなど少なからず被害を受けましたが、後年に復元されるなどして現在まで建ち続けています。

人文系の歴史博物館として現役の建物ですから、開館日はもちろん中に入ることができます。

竣工:1904年(旧館)
設計:妻木頼黄(旧館)

情報源: 建物のご紹介 | 神奈川県立歴史博物館

損保ジャパン日本興亜横浜馬車道ビル(旧川崎銀行横浜支店)

神奈川県立歴史博物館の隣に建つのは、旧川崎銀行横浜支店を改築した、損保ジャパン日本興亜横浜馬車道ビル。

現代的なビルと、ファサードとして残された旧建物が調和しています。

竣工:1922年
設計:矢部又吉 施工:矢部工業所

情報源: 損保ジャパン日本興亜横浜馬車道ビル(旧川崎銀行横浜支店) 横浜市

三井住友銀行横浜支店(三井銀行横浜支店)

本町通りに出て神奈川県庁方面に進むと、三井住友銀行横浜支店がありました。なんと、1931年に竣工して以来、一貫して営業しています。しかし、この姿が見られるのもあと少し。

竣工時の姿のまま銀行店舗として活用されている稀有な例ですが、2025年より現建物を組み込んだ形での建て替えが始まるそうです。

竣工:1931年
設計:トローブリッジ&リヴィングストン事務所 施工:清水組

情報源: 第134回横浜市都市美対策審議会議事録(令和5年5月26日開催) 横浜市
資料PDFリンク

綜通横浜ビル(旧江商横浜支店)

1930年に竣工した旧江商横浜支店を、ファサード部分に残す形で新しいビルとして建てられたのが、綜通横浜ビル。

パッと見て「フランク・ロイド・ライトっぽいな」と思ったのですが(実際、そのように評されているよう)、設計者は不詳とのこと。

竣工:1930年
設計:不詳 施工:大林組

情報源: 綜通横浜ビル 横浜市

横浜市開港記念会館

さて、綜通横浜ビルのお向かいには、横浜市開港記念会館があります。

なんといっても、この時計台が特徴。塔を備える横浜市開港記念会館、神奈川県庁、横浜税関の3つで「横浜三塔」と呼ばれています。

その横浜三塔の中でも、開港記念会館は「ジャック」と呼ばれています。

開港記念会館は、横浜で最初の建築物コンペでもあったそうです。

竣工:1917年

情報源: 会館の歴史 横浜市中区

神奈川県庁

横浜市開港記念会館から交差点を挟んで斜め向かいには、神奈川県庁があります。

これも、コンペで優勝したデザインを具体化したもの。

美しい塔は、横浜三塔の中で「キング」として君臨しています。

竣工年:1928年
設計者:神奈川県内務部(設計コンペ1等入選(小尾嘉郎(おび・かろう)案)を元に設計)
設計顧問:佐野利器
施工:大林組

情報源: キングの塔(神奈川県庁本庁舎)へようこそ! – 神奈川県ホームページ

情報源: 神奈川県庁舎 | OBAYASHI Thinking|大林組

横浜地方・簡易裁判所(旧横浜地方裁判所)

ここから先は、しばらく「日本大通り」を進みます。まずは、横浜地方・簡易裁判所。

背後に立つ新しいビルを建築する際、旧建物を低層部に復元しています。

竣工:1930年
設計:大蔵省営繕管財局 担当:小野武雄、保岡豊 施工:大倉土木

情報源: 横浜地方・簡易裁判所(旧横浜地方裁判所) 横浜市

横浜情報文化センター(旧横浜商工奨励館)

続いて「日本新聞博物館」や「放送ライブラリー」が入っている、横浜情報文化センターです。

私の中では「日本大通り」と聞くとまずこの建物が思い浮かびます。1Fのテナントが、いつのまにかタリーズコーヒーになていました。

竣工:1929年
設計:横浜市建築課 施工:岩崎金太郎

奥の茶色い建物は横浜都市発展記念館/横浜ユーラシア文化館で、旧横浜市外電話局を活用したもの(1929年竣工、設計:逓信省営繕課、施工:安藤組)。2000年には、この2棟の耐震化と背後の新築棟建設が一体的に実施されています。

情報源: 横浜情報文化センター 耐震補強 | 伝統建築/歴史的建造物の保護・再生 | 鹿島建設株式会社

情報源: 横浜情報文化センター(旧横浜商工奨励館) 横浜市

KN日本大通ビル(旧横浜三井物産ビル)

三井物産の横浜支店として建てられた、こちらのビル。日本で初の「全鉄筋コンクリートのオフィスビル」なのだとか。

関東大震災の被害を逃れ、今でも現役のオフィスビルとして活用されています。

竣工:1911年8月
設計:遠藤於莵

情報源: KN日本大通ビル|オフィス情報のケン・コーポレーション

情報源: KN日本大通ビル – プロジェクト事例 – 三井物産フォーサイト株式会社(MBF)

横浜海洋会館/横浜貿易会館

日本大通りから本町通り方面に戻り、さらに海側へと進めば、海岸通りに面したこちらのビルが見えてきます。異なる2棟のビルですが、一体的に建設されたようです。

大さん橋周辺の印象を決定づける建物のひとつだと思います。

竣工:ともに1929年

横浜税関本関庁舎

横浜三塔のうち、残るひとつがこちら。横浜税関です。

この日は観光客がすごく多くて、正面からのカットは諦めましたが、この眺めだと背後の増築部分である新しい建物との関係がよくわかるかも。

この塔が、横浜三塔の「クイーン」です。

竣工:1934年
設計:大蔵省営繕管財局工務部 施工:戸田組

情報源: 横浜税関本関庁舎 横浜市

赤レンガ倉庫

続いて、横浜の著名な観光スポットとして、知らない人はいない「赤レンガ倉庫」です。この日はイベントで、大賑わい。

1980年代末まで倉庫として現役で、その後数年間は放置(!)されていたことが思い出せないくらい、おしゃれな観光地になりました。赤レンガパークとして公開されたのは、2002年のことです。

竣工:1号倉庫 1913年、2号倉庫 1911年
設計:1号倉庫 原木仙之助、2号倉庫 大蔵省臨時建築部
施工:大蔵省臨時建築部

情報源: 赤レンガ倉庫 横浜市

横浜郵船ビル

赤レンガ倉庫から万国橋を渡って、横浜郵船ビルを見にきました。今回紹介する、最後の建物です。

竣工年:1936年
設計:和田順顕

横浜の近代建築として知られる横浜郵船ビルは、関東大震災で被災した初代横浜支店に代わり、創業50周年記念事業の一環で1936(昭和11)年に建てられました。設計は建築家の和田順顕、正面にコリント式の大オーダーと呼ばれる列柱が16本立ち並ぶ様はひと際目を引きます。

情報源: 日本郵船歴史博物館|企画展

日本郵船歴史博物館として活用されていましたが、現在は閉館しています。今後、日本郵船が新たな本拠地として隣接地に高層ビル整備するとともに、横浜郵船ビルも活用される予定となっています。

情報源: 海岸通り地区「横浜郵船ビル」はホテルに 2027年供用開始へ – ヨコハマ経済新聞

まとめ

最後に、横浜第二合同庁舎を経由して横浜アイランドタワーに戻ってきて、今回のミッションはコンプリートとしました。

サイクリングアプリ「STRAVA」の記録を見ると、桜木町駅前からスタートして、ひととおり回って横浜アイランドタワーで記録を終了するまで、1時間半かけて4.3kmを進みました。これだけみたら歩いているのと変わらないように見えますが、実際の移動時間は自転車の押し歩きも含めて30分ほどなので、自転車の特性はある程度活かせたかなと思います。

なお、平沼橋駅から桜木町駅まで2.3km、横浜アイランドタワーから西横浜駅まで3.1kmを走行したので、トータルでは10km弱走行しました。スケジュールの都合上、午後から夕方にかけて巡ったのですが、もう少し早く動き出すことができれば、ホテルニューグランドをはじめとする、今回紹介していない建物も効率よく廻れたでしょう。

今回のように、外観写真を撮りながら各スポットを巡っていくスタイルであれば、自転車の効率の良さは魅力的です。臨港パーク等の駐車場を拠点にしたり、シェアサイクルを活用するのもよいでしょう。

一方で「建物の中までじっくり見たい」という場合には、適切な駐輪場所を見つける必要があります。そのような巡り方をするのであれば、時間に余裕を持った上で、かつ見る建物も絞り、徒歩移動や「あかいくつバス」も考えたいところです。

●今回使用した自転車「XB1」

価格:72,000円(税込)
※3年間盗難補償付き
リンク: エックスビーワン | スポーツ向け自転車 | 自転車 | ブリヂストンサイクル株式会社
機材協力:ブリヂストンサイクル

text&photo_SUGAI Gen(CyclingEX

協力・協賛:ブリヂストンサイクル株式会社