この春、新しい自転車を手に入れたという方も多いのではないでしょうか。自転車店での納車の際に、こんなことを言われませんでしたか?
「1ヶ月くらいしたら、点検するのでいちどいらしてください」
買ったばかりの自転車を、1ヶ月で点検するって、どういう意味でしょうか。
今回は、BRI-CHANの記事でおなじみ「drawer THE BIKE STORE」の山路さんに、そんな疑問をぶつけてみました。
【アドバイザー】
山路 篤(やまじ・あつし)さん
「drawer(ドゥロワー)」代表。工具メーカー、完成車メーカーを経て2010年に自転車業界に特化した人材育成を手がける「drawer(ドゥロワー)」を設立。2016年12月に「drawer THE BIKE STORE」を神奈川県大和市にオープン。
・drawer(ドゥロワー)
リンク: drawer THE BIKE STORE- ドゥロワー ザ・バイクストア – | – ドゥロワー ザ・バイクストア –
それではさっそく、山路さんに聞いていきましょう。
Q:自転車を購入すると「1ヶ月くらいしたら点検もってきて」と言われるけど、どうして1ヶ月で点検が必要なのですか?
車やオートバイなども同じで、新車の状態から乗り出すことで、組み立てられた各部品に『なじみ』と言われるものが発生します。例えば新品の靴を履いて、しばらくするとなんとなくフィットしていく感じと似ています。
自転車の話に戻すと、フレームと呼ばれる骨格に取り付けられた部品は、それぞれが単品で組み立てられた上で、整備士によってフレームに組付けられています。それらの部品は自転車として完成し、乗車することで、それぞれの部品がフレームになじんでいきます。その過程で、組付けた部品のネジにゆるみが発生したり、ケーブルと呼ばれるワイヤー類、タイヤやブレーキパッドなどのゴム部品などが動かされることによってズレたり伸びたりといったことが起きるのです。
そういった、使うことによって発生するわずかなズレを補正するために、ユーザーになじみを出してもらうための期間を設けて、より正確な状態にするための点検が「初回点検」と言えます。
初回点検までの1ヶ月の間に、自転車が壊れてしまうほどのズレや伸びが発生するといったことはきわめて稀ですが、整備士が組み立てた自転車を、より安全に、より永く安心してお使いいただくため、初回の点検は必ず受けていただきたいと思います。
Q:具体的にはどんな点検をするのですか?
大きく分けて以下の3つを点検します。
1.ネジのゆるみ
2.ワイヤーケーブルの伸びによるブレーキや変速機の不調
3.ハンドルやサドルの高さ、ブレーキ位置などの調整
それ以外にもすべての状態を点検しますが、とくに購入後の1~2ヶ月で必ず発生するであろう上記3点は、入念に点検をします。
3つ目については、一定期間乗車することで、ハンドルの高さやサドルの高さ、またブレーキレバーの取り付け位置や角度、引き代などのユーザーの好みに応じた調整を行うことで、より快適に乗車することができるはずです。
Q:点検にもっていかないと、どんなデメリットがありますか?
先ほどお伝えしたとおり、1〜2ヶ月で著しく自転車が損傷するというケースは稀です。しかし、なじみが出すぎた状態での乗車は、正しい性能を引き出せているかというと、違うと言えます。
せっかくの高価な自転車ですから、最大限の性能を引き出して乗っていただいたほうがよろしいかと思います。
Q:購入1ヶ月後の点検は、お金がかかるのですか?
基本的に、すべての作業には「作業工賃」が存在します。作業が安全であることを整備士が担保し、それを商品・サービスとして提供しますので、対価が発生するのです。
ただし、実際に自転車を購入された店舗によっては、初回の点検については、独自のサービスを用意している場合があります(例;初回点検無料など)。自転車を購入の際には、点検などのサービス内容も確認することをおすすめします。
Q:初回だけでなく、その後も点検が必要なのですか?
自転車だけでなく、すべての乗り物には必ず点検が必要です。
車やオートバイは車検制度や法定点検など、法で定められた点検を行わなければなりませんが、自転車にはそのようなものがありません。しかし、車やオートバイ同様、動く乗り物ですので、必ず部品は消耗し、状態が悪化していきます。それらの状態を確認し、必要に応じて修理や交換を行う作業が点検作業です。
自転車には車検制度や法定点検が存在しないということは、「ユーザーがその責を担う」ということです。ご自身で点検される方もいらっしゃるかもしれませんが、ぜひ専門の自転車店で点検をおすすめします。一般的には、3ヶ月毎の点検が理想的です。
Q:自転車店ですすめられる「TSマーク」とはなんですか? 自転車保険ですか?
TSマークとは、その自転車が安全に点検・整備が行われた自転車であることを担保として、万が一の事故などに対して保険が適用される制度のことです。一般的な自転車保険は、ユーザー本人に対してかけられる保険に対して、TSマークは自転車にかかる保険になりますので、その自転車に誰がお乗りになっても適用できる保険になります。全国の自転車安全整備店で点検整備を受けていただくことで、TSマークを自転車に貼付されます。
点検整備代金は、自転車の状態や点検整備を受けていただく自転車店の作業工賃に依存しますので、全国一律ではありませんのでご注意ください。
Q:自転車の状態について、セルフチェックできることはありまか?
基本的には、自転車店での整備・点検を推奨します。
しかし、日ごろのチェックとして、タイヤの空気圧の確認や、ブレーキの利き具合、保安部品(ベル、前後反射板)の確認などはユーザーでもできる内容です。また、洗車や掃除をすることで、その自転車の問題を可視化できることがありますので、たまに自転車を拭いてあげるなどもユーザーにできる簡単なセルフチェックとは言えるでしょう。
乗車前点検や日々のお手入れについては、以前に私がポイントを紹介した記事があるので、ぜひそちらもごらんください。
関連記事:
自転車には多くの部品が使われ、それらがワイヤーで引っ張られたり、回転したりして動きます。そして、他の機械もそうであるように、実際に使い始めることで、初期の伸び・ゆるみが発生します。
それらにきちんと対処して、そのあとも自転車を安全・快適に使えるようにする——それが「1ヶ月くらいで、持ってきて」の理由なんですね。
みなさんも、自転車を購入したら面倒くさがらずに、ぜひ1ヶ月点検は受けてください。
text&photo_SUGAI Gen(CyclingEX)
協力・協賛:ブリヂストンサイクル株式会社