クロスバイクがシティサイクルと大きく異なる点のひとつとして、ギアの段数が多いことが挙げられるでしょう。
たとえばブリヂストン・グリーンレーベルの「CYLVA F24」には、前3段、後ろ8段の24段変速を備えています。
しかし、24段ものギア、いったいどうやって使えばよいのでしょうか。また、クロスバイクの中には後ろ8段だけのものもあれば、21段変速や27段変速などもあります。変速段数が多いほうが「速い」自転車なのでしょうか。
そんな素朴な疑問に、自転車の達人である、リンケージサイクリング代表・田代恭崇さんが答えてくれました。
●前のギアは真ん中を使っていればOK!?
まずは前後のギアについて簡単におさらいしましょう。
前のギアは、歯車が大きいほどスピードが出ますが、漕ぐときに重たく感じます。いちばん小さなギアは、軽く回すことができますが、スピードは出ません。変速段数の数字は前が3段の場合、小さい方から大きい方へ、1、2、3と振られています。そのギア板の位置から、軽い方からインナー、ミドル、アウターとも呼びます。
後ろのギアは、歯車が大きいほうが軽く漕ぐことができ、小さくなるに従って重たく、そしてスピードが出るようになります。
この前後の組み合わせでスピードを調整するのです。
その使いこなし方について、田代さんは次のように話します。
「CYLVA F24のような、前3段・後ろ8段のギアというのは、クロスバイクとしてはごく一般的なものですよね。合計で24段あるわけですが、これを全部使おうとする必要はありません。前3段のクロスバイクの場合、一般的な用途であればふだんは前のギアは真ん中(ミドル)で構いません。そして、後ろのギアを状況に応じて変えていくことで、快適に走ることができるんです。走り始めや上り坂では軽いギアを、そしてスピードが出るに従って後ろのギアを重たくしていき、ペダルの回転数が早すぎず遅すぎず、ちょうどよくなるようにギアチェンジをしましょう」
使わないほうがよい組み合わせについては後述
ちょうどよいペダルの回転数って、どれくらいなのでしょうか。
「1分間のペダル回転数をケイデンスというのですが、だいたいケイデンス70rpm(1分間に70回転)くらいが、効率がよく、そして気持ちよく走ることができます。CYLVA F24で、前のギアを真ん中にしたとき、どれくらいのスピードが出るのかを表にまとめてみました。後ろがいちばん軽い1速のときで約11km/h、5速で約19km/h、8速なら30km/h以上のスピードが出るんです。前が真ん中、後ろが5速や6速でも20km/h前後のスピードが出るので、普段使いなら十分に速くて快適と言えますし、後ろをいちばん軽い1速にすれば、結構な上り坂もクリアできます」
●じゃあ前3段ってどんな意味があるの?
なるほど、前のギアは真ん中でも実用上十分であるということはわかりました。でも、じゃぁ前3段、フロントトリプルと呼んだりもしますけど、インナーやアウターはなんのためにあるのでしょう?
「24段の組み合わせを全部使いなさい——という意味ではありません。街乗りであれば、前の変速は無い自転車でもまったく問題ないのです。では前3段にどんな意味があるかというと、前のギアが真ん中では登りきれないような急な坂を、自分でペダルを漕いで登り切りたいときには、前のギアをインナーに(軽く)しますし、もっと頑張ってスピードを出したいと思えば、前のギアをアウターに(重く)する。そういったことができるんです」
上り坂で、シティサイクルなら諦めて押していたようなところも、クロスバイクに乗り換えると意地になって登り切りたいと思いますね(笑)
「そんなときは、坂がきつくなってからではなく、坂の手前でギアを軽くするのがコツです。前のギアは変速ショックが大きくて、上り坂などでチェーンに負担がかかっている状態で変速すると、チェーンが落ちる等のトラブルが起きがち。だから、早めにギアチェンジするんです。ただ、前を軽くすると最初はギアが軽くなりすぎると感じます。だから、まずは早めに前のギアを軽くして、そして後ろのギアは少し重たくして調節します。逆もまた然り、です」
前のギアが複数あることで、そういった状況に応じたギアの選択肢が用意されているというわけですね。
「前のギアを変速するとどうなるか、そして、後ろをギアを変速するとどうなるか。平坦で安全な場所で、試してみると理解できますよ。ひとつ注意していただきたいのが、前がいちばん軽くて後ろがいちばん重い組み合わせや、逆に前がいちばん重くて後ろがいちばん軽い組み合わせは、チェーンに負担がかかってしまうので、使わないようにしてください」
●変速段数が多いと速いの?
ところで、変速段数が多い自転車は、やっぱりスピードが出るものなんですか? クロスバイクでも、後ろの変速が7段、8段、9段といろいろありますよね。ロードバイクですと、10段とか、11段とか。
「変速段数が多いと速いかというと、必ずしもそうではありません。ギア比ということばを聞いたことがあると思いますが、どこからどこまでをカバーしているかが重要です。例えば、後ろのギアが8段の自転車と9段の自転車があったとして、後ろのギアのいちばん大きい(軽い)ギアの歯数が32、小さい(重たい)ギアの歯数が11だとすると、カバーしている範囲は同じ。違うのは、あいだの段数だけなんです。でも、あいだの段数が多いことによって、快適に走れるギアがより見つけやすくなるのがメリットですね」
後ろが8段のギアのクロスバイクに乗って気持ちよく走っていて、ギアを大きいほうに1段変えたとき、あれ?なんだかちょっと重すぎるかも?と思うことがあるんです。かといって、1段戻すと軽いような……。
「段数が多いと、そういったストレスが解消されるのは確かですね。段数が多いと速いのではなく、段数が多いほうが気持ちいいといったほうが、合っているかもしれません」
というわけで、クロスバイクのギアは24段あるからといって全部使わなければいけないわけではなく、自分がちょうどよいと感じるところを使えばOK! そして前ギアが3段の自転車でも普段は真ん中で構いません。もちろん、前の変速がない自転車でも、実用上まったく問題なし。そして、変速段数が多いということは、“速い”というより“気持ちがいい”ということ。
今度の週末は、変速をちょっと意識してサイクリングしてみても、面白いかもしれません。
神奈川県藤沢市、江ノ島のすぐ近くで体験型サイクリングプログラムを提供している「リンケージサイクリング」の田代恭崇(たしろ・やすたか)さん。2004年夏季アテネ五輪の代表
text&photo_Gen SUGAI(CyclingEX)
取材協力:リンケージサイクリング
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協力・協賛:ブリヂストンサイクル株式会社