雨の日のサイクリングを安全・快適にするために

いよいよ本格的な梅雨。雨が続くと、サイクリングする機会も減ってくるのではないのでしょうか。私自身、雨が降らないときを選んでサイクリングしているのですが、そうは言っても雨天決行のイベント等で雨中に走行する機会も多くあります。そのような経験を踏まえ、今回は雨の自転車通勤やサイクリングでの注意点と快適に走れるポイントなどをご紹介します。

文:田代恭崇(2004年夏季アテネ五輪・自転車ロードレース日本代表)

雨の日のリスク

雨の日のサイクリングに特有のリスクがあることは、なんとなくイメージできると思いますが、改めて具体的にリスクを認識しておきましょう。

雨の日の主なリスクとしては下記が挙げられます。

視界が悪い

雨のときは晴天時よりも暗く、雨粒や水しぶきもあるので視界が悪くなります。

他者から自分が見えにくい

上記に関連し、視界が悪くなると相手から自分のことを見つけてもらいにくくなります。

路面が滑る

路面が濡れることでスリップしやすくなります。

パンクしやすい

雨の日は異物を拾いやすく、パンクのリスクが高まります。

気温が低下する

雨の日は晴天時より気温が下がることが多く、体温の低下にもつながります。体が濡れてしまうとなおさらです。

身体が濡れることによる不快感が高まる

体が濡れると不快感が高まります。雨によって直接濡れるだけでなく、いつもより汗をかくことも不快感の原因になります。

どのような装備や準備が必要か

雨の日のリスクを回避するためには、あらかじめ装備を整えておくことが大切です。安全に快適に走れるように、準備していきましょう。

前照灯/尾灯

雨の日は自分の視界が悪くなるだけではなく、車など他者から自転車を認識してもらうこと、つまり被視認性も悪くなります。

前照灯(前ライト)と尾灯(テールライト)を、夜間でなくとも点灯させましょう。より明るいライトを装着することも、リスク回避に繋がります。

耐パンク性能の高いタイヤ

雨の日は雨水により、鋭利な砂利やガラス片などが道路の広範囲に広がります。また、路面が濡れているとタイヤが異物を拾いやすくなります。これらの要因によって、雨の日はパンクのリスクが高まります。

耐パンク性能に優れたタイヤを使うことで、パンクのリスクはかなり軽減できます。しかし、雨天時だけタイヤを履き替えるのは現実的ではありません。通勤などで使う自転車や、天気にかかわらずツーリングに使う自転車などでは、軽さを重視したタイヤではなく、ふだんから耐パンク性能を重視したタイヤを装着しておくことも有効です。もちろん、タイヤは劣化する前にきちんと交換することが前提です。

タイヤ空気圧の調整

雨の日にスリップした経験がある方は、少なくないでしょう。

雨の日は、路面とタイヤの間に水膜が干渉しグリップ力が下がります。タイヤのサイドに刻印されている適正空気圧を確認して、通常使用している空気圧から0.5気圧から1気圧を目安として空気圧を下げてみましょう(下げ過ぎ厳禁!適正空気圧の範囲内であることが前提です)。絶対に滑らずグリップが約束されるというわけではありませんが、空気圧を下げることで、グリップはしやすくなります。空気圧計がついている空気入れを使って、調整しましょう。

泥除け

泥除け(フェンダー)は、タイヤが跳ね上げる水しぶきが身体にかかるのを防ぎます。クロスバイクであれば、泥除けをボルトなどで台座にしっかり装着できる仕様になっていることが一般的です。ブリヂストンの「TB1」のように、泥除けが標準装備のクロスバイクもあります。

泥除用の台座がないロードバイクなどであれば、簡易的な泥除を装着します。泥除けは、雨が降っている最中だけでなく、雨上がりに乗る際にも有効です。泥除けがないと背中やお尻が濡れたり汚れたりして、悲しい思いをしてしまいます。

レインウエア

身体を濡らさないためにもっとも効果的な装備が、レインウエアです。雨の日は気温も下がる傾向になり、身体が濡れたままで走行すると体温が低下して体調を崩しやすくなります。単に濡れないというだけではなく、体調の維持という意味でも上下レインウエアは大切です。

コンビニで売っているレインコート(カッパ)は緊急手段と考え、できればウェア内部の蒸れを逃してくれる機能があるレインウェアを用意したいところです。レインパンツは、裾を絞ることができるタイプならば、裾がチェーンに絡まることを防げるのでおすすめ。

なお、手で傘をさして自転車を乗る行為は、道路交通法では安全運転義務違反の危険行為に該当しますので絶対にやめましょう。

ヘルメットカバー/サイクリングキャップ

自転車用ヘルメットは、通気性を高めるために穴が多く開いているモデルが多いのですが、雨の日はその通気孔がアダとなって頭が濡れてしまい、不快感が高まります。ヘルメットレインカバーやサイクリングキャップを使い、頭部が濡れるのを防ぎましょう。

サイクリングキャップには、上から顔にかかってくる雨水をある程度防いでくれるので、視界を保つためにも有効です。

クリアレンズサングラス

サングラスも、雨粒から視界を保つためにも役立つアイテムです。ただし通常のサングラスは晴天時の使用を想定しているので、雨天時は視界が暗くなります。色の薄いレンズもしくはクリアレンズを活用して、視界をしっかり保ちましょう。

バイザーが装着できるヘルメットも、クリアバイザーを使うと便利です。

リュックカバー

自転車通勤・通学では、荷物の中身が濡れてしまうのを防ぐことも必要です。

リュックならば、防水カバーを標準装備しているものが便利でしょう。不意に雨に降られた時など、防水カバーがない時には、簡易的にジップロックやビニール袋に荷物を入れ収納することも対策になります。

シューズカバー

靴の中に水が入り足元が濡れるのも、相当なストレスになります。

サイクリングシューズ専用レインカバーなどもありますが、比較的簡単に手に入れられるのが、普段履きの靴に使えるシューズカバーです。100均などでも手に入れられるものから、靴と足首上までしっかり防水できるシリコンタイプのものもあり、雨の日を快適にするアイテムのひとつです。

また、普段着での自転車通勤や通学であれば、ふだんから「ゴアテックス」等を用いた防水仕様のシューズを使うのもよいでしょう。ただし、足首からの雨水浸入には無力なのであしからず。

雨の日の走り方

続いて、雨の日の走り方についてです。

走り方でもっとも気をつける必要があるのが、ブレーキ操作です。スリップしないためにも、緩やかで早めのブレーキングが大切です。また、雨天時は晴天時に比べると制動距離が想像以上に伸びるため、そもそもスピードを控えめにすることも大切です。

路面で滑りやすいのが、マンホールやグレーチングなどの鉄板、そして路面表示の白線などです。鉄板を無理してすべて避ける必要はありませんが、鉄板の上でペダリングすると滑るので、直線であれば足をとめて通過します。コーナーで身体を倒して通過することは、滑る可能性が極めて高いので厳禁です。

路面表示の白線も同じで、とくに気をつけたいのは交差点などで曲がるとき。しっかり減速して、身体を傾けない状態で通過しましょう。

メンテナンス

雨の日にサイクリングしたあと、自転車をそのままにしてしまうと、錆の原因になります。車体の水分を取り除き、チェーンには必ず注油を行いましょう。

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終わりに

最近ではゲリラ豪雨や集中豪雨といった言葉を聞く機会も増えてきていますが、そのような天候が予想できる際はもちろん、出かける前から雨が降っている、出かけたい方向の天気予報に不安がある——といったときは「乗らない」という判断も必要です。通勤・通学であれば、公共交通機関に切り替えるなど、他の手段を考えましょう。そのためには、時間に余裕をもっていくことも大切です。

出先で雨に降られた場合や他の交通手段がない場合など、やむを得ず雨の日にサイクリングする際は、安全に十分気をつけて、決して無理をしないようにしてください。


田代恭崇(たしろ・やすたか)

神奈川県藤沢市、江ノ島のすぐ近くで体験型サイクリングプログラムを提供している「リンケージサイクリング」を主宰。2004年夏季アテネ五輪・自転車ロードレース日本代表選手。

リンク: LINKAGE CYCLING

photo_田代恭崇、リンケージサイクリング

協力・協賛:ブリヂストンサイクル株式会社